「グローバル会計学会」設立趣旨書

グローバリゼーションとは、各国の多様な文化的特性を背景とした異文化共有化を図ろうとするものである。本来、グローバリゼーションを指向する「国際会計」は、企業活動の国際化に伴う会計実践(多国籍企業会計論)、会計制度の国際比較(比較会計制度論)およびその派生的課題である会計基準の国際的調和化または国際的統一化(会計基準国際調和化論または会計基準国際統一化論)を取り扱う会計分野として成立している。

会計制度としての国際会計は、本来、広く企業の対外的側面をなす「制度」を認識基点とする。制度としての国際会計は、国際財務会計・国際企業報告、国際管理会計、国際税務会計、国際会計監査などを広く包含するものである。その背景には、各国の歴史・文化や人間・企業行動等の違いがある。したがって、比較会計制度論の重要課題である会計基準国際調和化論または会計基準国際統一化論の検討においても、各国の歴史・文化や人間・企業行動等の違いを踏まえつつ、すべての会計領域において全世界を通ずる会計理論・実践の創造が試みられなければならない。ここに国際会計を深耕するグローバル会計を観念する契機が存在する。

しかしながら、21世紀に入り各国におけるIFRSのアドプションあるいは会計基準の国際的収斂が進行したことにより、「国際会計=IFRS」との認識がますます支配的になり、専らIFRSの実務対応的研究をもって国際会計研究であると解する傾向が強くなっている。このような傾向は、将来におけるグローバル会計研究にとって危機的な状況に陥っていると言っても過言ではない。

グローバル会計は、法制度やビジネス慣行など、広く各国のローカル文化的特性にも強く影響される。したがって、「グローバリゼーション=統一化」と「ローカリゼーション=多様化」との文化概念的対峙に関して、両者の最適共存関係のもとで新たなグローバルかつローカルな会計文化の創造を目指さなければならない。本学会は、このような理念を実現するために、旧来のわが国の学会には見られない新たな制度改革と学会運営を図りたい。

第1に、研究対象の多様化である。つまり、国際会計にとって重要な課題をより包括的・多面的・学際的な側面から総合的に研究する。具体的には、会計の実践主体である多国籍企業が解決しなければならない会計処理(外貨換算、国際連結・セグメント情報、IFRS等)、国際企業報告(統合報告、CSR報告等)、国際管理会計(国際投資計画・業績評価、国際資金調達・運用、為替リスクマネジメント等)、国際税務会計(国際的タックスプラニング、移転価格税制等)および国際会計監査(国際監査基準、独立監査人の監査報告書等)を検討する「多国籍企業会計論」、各国会計制度の沿革・会計処理基準・開示基準の特質等を比較・分析することにより各国間の制度的共通点・相違点を明らかにする「比較会計制度論」が、理論的・実証的に探究される。多様性ある幅広いグローバル会計に関する理論・実践の創造を試みることが本学会の最大の目的である。

第2に、学会主体として、わが国大学院・研究機関等で学ぶ海外研究者にも広く学会

参加を呼びかけたい。グローバリゼーションを目指すためには、学会の姿勢もグローバルでなければならない。とくにアジア諸国からの研究者・学生を対象とした国際交流を広く推進するために、たとえば、中国、韓国、台湾、インド、ASEAN諸国等を含む海外の研究者および大学院生との学術交流を拡大し、学会の国際化を図るとともに、会員が国際的に活動できる環境を整備し、海外での学会報告・英文論文執筆等を後援する。

第3に、若手研究者の育成等の諸活動を支援する。具体的には、統一論題や課題別研究報告等への若手研究者の報告機会を高めるなど、次世代の研究者育成を目指したオープンな学会運営に努める。

このような共通認識に基づいて、将来におけるグローバル会計研究に貢献でき、会計制度の発展に役立つ理論的・実証的研究を行う研究学会として、ここに「グローバル会計学会」を設立することとする。

2017年11月3日

発起人代表   菊 谷 正 人

発起人(五十音順)

五十嵐則夫  池田公司   石井 明   石原裕也   一高龍司
伊藤和憲   伊藤嘉博   岩崎 勇   上野清貴   大下勇二
越智信仁   椛田龍三   菊谷正人   黒川保美   郡司 健
古賀智敏   佐々木隆志  白木俊彦   近田典行   照屋行雄
鳥飼裕一   中嶋隆一   成道秀雄   野村健太郎  藤井秀樹
古庄 修   星野一郎   堀江正之   本田良己   松井泰則
溝上達也   宮崎修行   與三野禎倫  吉見 宏   依田俊伸